ドッグフード売り場を歩いていると、さまざまなフードのパッケージには「うま味」や「特別な原材料」をうたっています。けれど、犬たちは本当に味の違いを感じ取っているのでしょうか?
答えは「はい、犬も味を感じることができます。」
一見すると勢いよく食べているだけのように見えるかもしれませんが、犬たちも実は食べ物の味の違いを感じ、おいしいものとそうでないものを選り好みすることがあります。ただし、その味覚は人間の感じ方とは少し異なります。
1. 犬はどのようにして味を感じるの?

ただし、犬と人間では味蕾の数が大きく異なります。人間の舌には平均して約7,500個(成人の場合)の味蕾があるのに対し、犬はその約6分の1程度、約1,700-2,000個とされています。一見すると犬の味覚は劣っているようにも思えますが、実際にはその数でも十分に食べ物の風味の違いを感じ取ることができます。
犬の味蕾は、舌全体ではなく特定の部位に集中しており、特に舌の先端や側面に分布しています。興味深いことに、犬の舌の先端には「水の味」を感じることができる特別な味蕾も存在し、食後に脱水状態を察知するなど、本能的な水分補給の行動にもつながっています。
また、犬は人間ほど味覚に依存して食べ物を選ぶわけではありません。彼らにとって最も重要なのは「におい」です。犬の嗅覚は人間の数千倍も敏感であり、フードの香りを通じて好みかどうかを判断する傾向があります。
ただし、それでも味の違いを完全に無視しているわけではなく、あるフードを食べ残したり特定の味に反応する行動は、味覚による選別の結果である可能性があります。
このように、犬の味覚は人間と比べると繊細ではないかもしれませんが、彼らなりにしっかりと「味わって」食事をしており、好みや反応に個体差があることも理解しておくと良いでしょう。
2. 犬が感じることができる味とは

人間は甘味、酸味、塩味、苦味、辛味を明確に感じ取りますが、犬はそのうちのいくつかを感じることができる一方で、人間と同じようには反応しません。
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甘味:犬は甘い味を好む傾向があります。果物などに含まれる自然な甘みを好んで食べる犬も多いです。
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酸味・苦味:多くの犬は酸味や苦味を好まず、避ける傾向があります。これは本能的に「腐ったもの」や「毒」といった危険なものを避けるためと考えられています。
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辛味:犬は辛さそのものを味としては感じませんが、辛いものに含まれるカプサイシンなどの刺激物は、痛みとして感じることがあります。
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塩味:犬は塩味に対してはあまり敏感ではありません。これは祖先の食生活が肉中心で塩分が自然に摂取できていたため、強い欲求を持つ必要がなかったからです。
3. 犬は肉の種類によって味を区別できるの?

はい、犬は鶏肉、牛肉、魚など、異なる種類の肉の風味の違いを感じ取ることができます。とくに犬は嗅覚が非常に優れており、人間の数千倍もの嗅覚受容体を持っているとされ、まずはにおいによって食べ物の種類や鮮度、好みを判断します。
そのうえで、味覚によって「これは食べたい」「これは食べたくない」といった最終的な選別を行っていると考えられています。
このため、特定の肉に対して強い好みを示す犬もいれば、ある種類のたんぱく源を避けるような行動を取る犬もいます。たとえば、「鶏肉ベースのフードはよく食べるのに、牛肉だと食いつきが悪い」「魚系のフードはあまり口にしないが、ラム肉だとしっかり完食する」といった個体差は珍しくありません。
こうした好みは、犬の品種や年齢、過去の食経験、さらには健康状態によっても影響を受けるといわれています。子犬の頃から特定の肉しか食べていない犬は、他のたんぱく源を受け入れにくい傾向が見られることもあります。
また、加齢によって味覚や嗅覚が変化し、以前は好んでいたものを突然食べなくなるケースもあります。さらに、たんぱく源ごとに持つ独特なにおいや油分の違い、調理方法(ロースト、乾燥、蒸しなど)による風味の変化も、犬の嗜好性に影響を与える要因になります。
このように、犬の「肉の好み」は単なる気まぐれではなく、感覚器官と経験によって形成された明確な選好であることが多いのです。愛犬が特定のフードに対して偏食傾向を示している場合は、その背景にある嗅覚・味覚的な理由を理解することが、より適切な食事選びの手助けになるかもしれません。
4. 犬は他にどんな味を感じるの?

犬は「水の味」を感じ取るための特別な味蕾を、舌の先端付近に持っています。これは人間にはほとんど見られない特徴で、犬にとって非常に重要な生理的機能です。
これらの味蕾は通常時にも働いていますが、特に甘味や塩分の多い食事を摂取した直後に活性化が高まることが知られています。これは、体内の塩分濃度や糖分濃度が上昇した際に、脱水を防ぐために水を欲する反応を促すという生存本能の一種と考えられています。
つまり、犬は単に喉が渇いたから水を飲むのではなく、食べ物の味をきっかけに水分補給の必要性を自ら感じ取り、行動に移すという高度な調整機能を備えているのです。
特にドライフードを中心とした食生活の犬にとっては、この「水の味覚」が水分補給のきっかけとして重要な役割を果たしているといえます。
一方で、犬の食の選好を大きく左右しているのは、やはりその卓越した嗅覚です。犬の嗅細胞の数は、人間のおよそ50倍〜100倍ともいわれており、においの識別能力は非常に高い水準にあります。
犬は、食べ物に鼻を近づけて嗅ぐことで、においから食材の新鮮さ、味の濃さ、好みかどうかなどを瞬時に判断していると考えられています。
また、嗅覚は味覚を補完する役割も持っています。人間でも鼻が詰まっていると食べ物の味が分かりづらくなるのと同様に、犬も嗅覚が鈍っていると食欲が低下したり、好みの傾向が変わることがあります。これは加齢や体調不良によっても見られる反応です。
したがって、犬の「食べたい・食べたくない」という反応は、単に味覚だけでなく、嗅覚との連携によって生まれているといえるでしょう。味とにおいの相互作用は、犬にとっての「おいしさ」の正体そのものであり、好みに合った食事を提供するには、この両方を満たす必要があります。
5. 偏食ぎみな犬のためにできる工夫

犬も人間と同じように、それぞれに好みがあります。あるフードを好んで食べる犬もいれば、食いつきが悪い、あるいはまったく手をつけないといった犬もいます。
こうした「偏食ぎみな犬」は、次のような理由で食事に消極的になることがあります。
- 味やにおいが好みに合っていない
- 胃腸の調子が悪い
- 同じフードに飽きている
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食事量が多すぎて空腹感がない
こうした場合は、以下のような工夫をすることで改善が期待できます。
- 食事の回数や量を見直す
- たんぱく源を変える(鶏→魚など)
- 食材の香りや温度を調整する(少し温めて香りを引き立てるなど)
- トッピングで変化をつける(野菜や無添加の手作りスープなど)
犬にとって食事は栄養補給だけでなく、「楽しみ」でもあります。味や香り、食感などが満足できるフードを選ぶことで、食事の時間はより幸せな時間になります。
偏食や食いつきの悪さに悩む飼い主さんも少なくありませんが、犬の味覚や嗅覚を理解し、その個性に寄り添った食事を工夫することが大切です。
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